ゆるむるぅむ *monde

 

+ Algarve 1 +

 
Zurich_チューリッヒ 経由の Swiss Air で、深夜の Lisboa_リスボン に到着し、安宿にはタクシーで。そして、翌朝すぐにまたバックパックを背負い、メトロで長距離バスターミナルへ。そこからポルトガルの南にある Algarve_アルガルベ地方へと向かう。行き先は、大西洋に面する小さな港町、Olhão_オリョン。
 

以前、何かの雑誌で見たある写真には、そこが Olhão であると小さな文字で記されていた。こじんまりとした高台あたりから撮られたのだろうか、夕刻の薄紫の空、白っぽくて四角い家々がひしめくように立ち並んでいる。青白い明かりが灯され、屋根の部分にはテレビのアンテナがポツポツと見え、何となく、はるか向こうの対岸にあるモロッコで見た景色を彷彿とさせた。イスラム時代の名残もあるのだろうか? ややさびれた感じの素朴な風景が映っていて、いつか行ってみたいなぁ‥と思っていたのだ。
 

ポルトガルのガイドブックを見てみたが、Olhão の紹介はない。ただ、地図で探してみるとアルガルベ地方の中心都市 Faro からすぐ近くのようなので、まぁ、たぶん行けるだろう‥。そのポルトガルといえば、ヨーロッパの端っこ、あとは昔からの交易国、カステラ‥ぐらいしか知らなかったが、Parisで会ったポルトガル人の Céu はとってもやさしかったなぁ‥とただそれだけで勝手に好印象‥というのもあり、もうすこし下調べしていくと、サウダージという切なさや哀愁のような庶民的情緒があり、アズレージョというタイル装飾があり、ファドというこの地独特の音楽があるそうで、まぁ端っこでもヨーロッパだし、ぜひ行ってみたい‥! と、旅立つことにしたのだ。
 

Lisboa を出発したバスの中で、しばらくすると、アテンダントの女性が前方から小さなワゴンを押してコーヒーを配り始めた。んー、これってサービス? 見ていると他の乗客でお金を払っている感じの人もいない‥。が、なぜか全員に聞く感じでもなく、彼女も表情変えず非常に淡々としている‥。えーどうしよう、もらえるのかな?‥と思っていたが、スルーっと普通に素通りされてしまった‥。まぁ4時間ぐらいだし、さっきターミナルでバスを待つ間にちゃんとサンドイッチやジュースを買ってきていたし、逆にトイレも心配だから、騒ぐこともないか‥と、そのままやりすごしたが、バスの中でこうゆうのって珍しいというか、初めて見た。結局、ポルトガル語もわからないので聞けずじまい、謎のまま終わったひと時だったが、そんなことはまったくお構いなしに、バスはスムーズに高速道路を流れるように走っていった。
 

日本を出た時は冬の真っ只中だったが、Olhão に着いてみると、霧雨が降ってはいたものの、春のようなほんわりとした空気が流れていた。鉄道駅にあったツーリストオフィスでおすすめの安宿を聞き、そこでコピーしてもらったちいさな地図を片手に歩き始める。幸い教えてもらったこじんまりとしたホテルはすぐに見つかり、部屋をとって、荷物を置いて、少し横になって休憩した後でまた外に出ると、もう雨はほとんど止んでいた。きらきらと柔らかい光も差してきて、しっとりと濡れた石畳の町並みを、とりあえず海のある方角へと歩いてみることにする。
 

夕方近くの時間だったが、人気はあまりなく、静かで、通り沿いには四角い壁一面に素朴な模様や色使いのタイルが貼られていたり、基本は白壁だが、湿気も多いのか苔付いたり、ちょっとくずれかかっていたり、黒くくすんだりしている家々を眺める。それでも時々、壁の裏手や窓の奥から人の声やラジオの音が聞こえ、そこで暮らしている日常の気配が感じられた。欠けた漆喰、剥がれたタイル壁、色褪せた鎧戸。通りに面した窓枠の内側には白いレースのカーテンがかけられていたり、シンプルな装飾の鉄格子が付いていたり‥。あぁそうだ、今、あの写真の中にいるんだなぁ‥と思いながら、とぼとぼとゆっくり歩いてゆく。
 

海岸にはまだ距離があって遠そうだけれど、町の路地を完全に抜けたところに、整備されただたっ広い広場があった。決められた曜日にはそこにマルシェが立つのだろう。アスファルトの上の大きな水たまりをいくつか避けながら、その中央らへんにポツンとあったバーへ寄って、雨上がりで濡れていないかを確かめてからテラス席に座り、しばしやり過ごす。店内は客もまだらで混んではいなかったが、地元の人たちが立ち飲みをしていたり、和気あいあいとした雰囲気で、時折笑い声が聞こえてくるのが心地よかったし、こちらに気づいてサーブしに来てくれた女性も、毎回にっこりと微笑んでくれた。この感じはなんというか‥、時差ぼけも混じってふんわりしている状態にまさにぴったりだった。ゆったりと流れる空気感とでもいうのだろうか、ひとりでいるのが少し寂しい感じもしたが、気持ちは穏やかでくつろいでいた。帰りにパン屋さんに寄って、またサンドイッチを買って夕食とした。ここをスタートにして、アルガルベ地方を海沿いに西へ、いつものように心赴くままに動いてゆくことに‥。
 

次の日、朝食を摂ってから町をてきとうに歩いて回って、数枚だけだが、お、と思って立ち止まったところで写真を撮った。朝は、雲の間に穏やかな青空が見えていた。日の当たる場所を逃さないように、路地の隅で干された洗濯物があったり、空になった飲料水のタンクが玄関先に並べ置かれていたり、錆びたホイールや古いタイヤが雑然と積み重ねられていたり、そこは観光地のような見るべきものは特にないし、華やかさもないけれど、それぞれの営みがそこらここらにあり、人々が日々を静かに落ち着いて送っている町のように見えた。特に人々と知り合うこともなかったが、散策してみて、ただそこにあったシンプルさがとても心地よかったし、来てみてよかったな‥と思えた。ただ、もっと海のそばに行きたいのもあって、その後は Olhão を離れ、次の場所へと移ることに決めた。
 

まず Faro へ行ってから、そこでバスを乗り換え、Albufeira というところまで行くことにした。ガイドブックによると、地方を代表するリゾートで、コスモポリタンな町‥と書かれていたので、興味をそそられけっこう楽しみにしていたのだが、バスがもうそろそろ到着するだろう‥というころで、あれ? なんか‥、どうなの、これ‥という気持ちがよぎり始める。というのも、窓から外を見ていると、くねくねと曲がる道の先々に、老人向けの保養所っぽい、明らかにリッチ層向けの施設やマンションが、ダーン、ダーン‥と現れ始め、あぁリゾートってそういうこと‥と思う頃には、もうバスを降りなくてはならず、いや、でも海は綺麗なんだろうしな〜‥と、荷物を背負ったまま、とりあえず海岸へと行ってみたものの、えー、これかー、ちょっとなー、ないかなー‥ ないなー、ないない! やめた、次行こう!となり‥。まぁ、一瞥程度なので、あえてそこのくわしい描写はしない、というかできないのだが、たぶんここには馴染めない‥みたいなのを感じてしまったから‥ということにしておく。
 
 
というわけで、滞在時間わずか30分ほどでまた別のバスに乗り込み、もっと先にある Lagos_ラーゴスを目指すことにした。