ゆるむるぅむ *monde

 

+ et cetera +

 

パリはとても色彩豊かな町だ。‥とはいっても建造物はだいたいが年季の入った石造りで白っぽかったりグレーっぽかったりするので、街並みのことではなくて、中身の話である。
 

最初のパリ滞在ですぐに気づいたのは、意外にすんなりと自分が風景に溶け込んでしまっていることだった。世界各国から観光客が多いというのはもちろんなのだが、暮らす人々もまた肌の色、目の色、髪の色の違う多種多様な人たちであり、他にもメトロの駅や車内から聴こえてくる音楽、街中にあるレストランなど、ほんとうに様々な文化に出会えるのである。歩いていてジロジロと物珍しそうに見られるようなこともない。が、反対にちょっとした身のこなしやコミュニケーションで、住人でないというのはすぐにわかってしまう。
 

たった一週間という短い期間ではあったが、この時のパリで学んだのは、あいさつが基本中の基本だということ。ショップに入る時、買い物する時のレジ、カフェや、駅の窓口でのやりとりは、まずボンジュー(おはよう/こんにちは)またはボンソワー(こんばんは)とあいさつしてから。これを怠ると冷たくあしらわれる。そして店を出る時、立ち去る時にもきちんと声に出して、メルシー(ありがとう)、オボワー(さようなら)と云うのが当たり前。
 

それから、お店ではもちろんだが、道端でも、知らない人と目が合った時は、にっこり微笑むこと。たいがいの人はすぐに微笑み返してくれる。見ていてわかったことだが、口角をあげてそれ風に見せるだけでもいい。でも目が合ったのに無表情のままでいたりすると不審がられたり、何なのこいつ‥的な視線をあからさまに浴びたり、完全に無視されてしまったりするかもしれない。
 

あと、公共の場で手でドアを開けた後は、すぐ後ろにいる人のためにドアを押さえていて待ってあげるのが普通だということ。今は自動ドアも多いだろうし、ささいなことではあるのだが、それでもそんなちょっとした気遣いが、スムーズ&ほっこり感に繋がることに感心した。メトロの出口のドアで、ワルぶった若い男の子とかが急いでいて早く行きたいんだけども、腕だけは伸ばして指先でドアをつかんでいたり‥。
 

ただし、もちろんイライラしている人や、偏見を持っている人というのはどこにだっているわけで、もし運悪くそういう人がいて、きつい態度を取られたとしても、あまり気にせずにやり過ごせばいいのではないかと思う。
 

しかしまぁこの時のフランス語の聞き取れなさといったら‥。ほんとうにもう、通信教育なんてやっててもダメだな‥というのが実感だった。いわゆる観光スポットとされているところは一通り巡ってみたりしたのだが、よく覚えているのは景色やモニュメントなどよりも、人と交わした数々のつたないコミュニケーションのことだ。
 

街中の売店で Sandwich をなんとなくフランス語の発音だとこうかな?と自己流に「このサンドウイッシュください」と一生懸命云っていたのにまったく通じず、結局毎回ショーケースの品物に指をさして「これ、これ、ひとつ、シルブプレ‥」と目で訴える方式だったのが、ある時、他の人が隣で「サンドウィッチ」と云うのを耳にして、ハッ!なんだ、英語発音でいいんだ!と、ある意味ホッとしたような、でもなんだか恥ずかしいような思いをしたこと。
 

有名な百貨店のグルメコーナーでテイクアウトの買い物をした際、レジで支払いをした後もらえるのが当然だと思っていたビニール袋がもらえず、 無言であうあう‥としていると、キッとしたそのお姉さんから半分投げるように袋をよこされてしまったこと。
 

邸宅を改装した小さな美術館に行った時、部屋中の壁という壁に目一杯かけられた絵やタペストリーの数々にクラクラしてしまい、でもせっかく入館したので適当に見ていたら、暇そうにしていた男性の館員がカツカツカツとそばに寄ってきて、
「ここにあるフレームはブック式になっていて、こうやってフックから外すともっとたくさんの絵がご覧いただけますよ」
と英語で親切ていねいに教えてくれ、見るとほんとうにその画家の素描などが一枚一枚ファイルされていたのだが、わざわざ教えてくれたといううれしさ半分、うわぁ〜さらにこんなにもある〜‥と思って一層よろめいてしまったこと。
 

シャンゼリゼ大通りから少し入った並木道をのほほんと歩いていると、やや遠くではあったがスリを目撃したこと。男はあっという間にもっと遠くへ走り去り、被害にあった女の子は手ぶらでわーんと泣いていた‥。バッグを持つ手がぎゅっと引き締まった瞬間だった。
 

一人だし、節約もあって、ホテルでの朝食以外の食事は売店やカフェのサンドウィッチやデニッシュで済ませたりしていたが、一度だけ、遅いランチをしようと試しにビストロっぽいレストランにも入ってみた。英語のメニューはなく、フランス語だけの、それもまたとってもステキなレタリングで書かれたメニューにチンプンカンプンで、値段を見ててきとうに指差しで「これ」と注文。飲み物を聞かれ、「コカコーラ?」と勧められると、なんか他のものが飲みたいんだけどな‥と内心思ったものの、
「はい、コカコーラで。」と答えてしまったこと。
そして出てきた料理は、お、大皿いっぱいの蒸したムール貝! 添えられたパンとバターの他はほんとうにムール貝だけ。ムール貝はあの時もう一生分、食べたはず。
 

モンマルトルの丘の上の広場では、いろんな画家さんたちがスタンドを出して絵を売っていて、ぐるっと見て回った後、水彩で描かれたエッフェル塔の小さなフレーム画が気に入ったので自分のお土産にしたくて
「これにします。おいくらですか?」とそこにいた人に聞いたら、
「あ、これ? えっとねー今ここの人お昼ごはん食べにいってるの。⚪︎⚪︎フラン‥でたぶんいいはず‥」
と云われて、まぁ納得の値段というか、思ったよりも手頃だったので素直にそれを購入しその場を去ったが、ほんとうにその値段でよかったのかは謎のままである。
 
 

その一週間の滞在で強く思ったのは、うーん、これはなかなか手強いけど、もっと奥が深そうだなパリ‥ということ。それから、いつかこの町に馴染んで暮らしてみたい‥そのためにはちゃんとフランス語を勉強しなくちゃ‥ということだった。