ゆるむるぅむ *monde

 

+ Jesus +

 

Rouen でのある日、学校の帰りにノートルダム大聖堂のすぐ横で、ばったり Jesus に会った。
 

Jesus は瞳がくりくりっとしていて、すごく背が高くてすらっとしていて、たぶん年下、こざっぱりとした短髪で‥。もちろん、名前を聞いて想像するあの Jesus ではない。ウォッシュドジーンズを履いた、ちょっとシャイな好青年で、笑顔のすてきなスペイン人のクラスメイトだった。
 

「あれ! また会ったね〜」的な感じで、どちらからともなく自然に話し始めた。まだまだ明るい放課後の午後、彼は地図を片手にどうやら観光しようとしているらしい。だが、互いにフランスに来たばかりの頃で、会話の進行はなんともスローで‥
 

J「ここ(大聖堂)はもう入って見た?」(指差して)
R「うん、見たよ」(うなずく)
J「どうだった?」(大きな目を一層大きく)
R「うん、よかったよ」(セ・ビヤン)
J「他はどこを見た? どこが良かった?」(地図と空に向けて指をグルングルン)
R「え〜っと‥」(おっと…)
 

そんな身振り手振りを混じえての、まったくベタな初歩的会話ではあったが、頭の中で思いつく単語を組み合わせ、文にして発音に注意して口から出す。それはまさに会話の実習だった。
 

彼の方も、くりくりっとした目をしたまま、うんうん‥と一生懸命聞いていたり、え〜っとほら‥とじれったそうに言葉をひねり出していたり‥。おそらくこの時のふたりのフランス語はまぁほぼ同レベルだったのだろうが、通じたり通じなかったりで、やはり会話はそれほど長く続けられず、顔を見合わせたままのちょっとした沈黙‥も含めて、これ以上はしんどいな‥とお互い感じる雰囲気もあったので、そろそろ行こうかな‥と思った時、
 

J「どこに住んでるの? どうやって帰るの?」
R「バスで、20分ぐらいのところ」
J「バス!」
R「うん、でもそんなに遠くないよ」
J「あ〜、ヒュッヒュィッ?」(←ジェスチャー)
 
出た!! 彼のこのジェスチャーを見るのはそれで二度目だったが、最初に目にした時に、いっぺんで好きになった。ヒュッヒュィッっという音は、半分口笛みたいに口をすぼませて鳴らし、手はピースの指を軽くくっつけた格好で、それを身体の前で横にササッとすばやく往復 ⇄ させる。
 

最初は確か、彼がクラスの中で「言葉は違うけど、スペインとフランスは隣だしすごく近いから」‥みたいなことを話しながら、自然にヒュッヒュィッっとやった。それはあまりにもわかりやすく、その風のような笛音の軽やかさも相まって、先生も含めてクラスのみんなが笑顔になった。
 

だからそれが目の前でまた不意に再現されて、なんだかとてもうれしくて、微笑ましく、そして可笑しくなって

「うん、そうそう」と笑ってうなずきながら手振りだけ真似してみた。
 

そうしてから、じゃあまたね‥と離れて立ち去ったのだが、彼ときちんと一対一で話したのは結局これが最初で最後だった。彼も他のヨーロッパ諸国から来ている多くの人たちと同様に短期の留学だったようで、だいたい3週間とか1ヶ月ぐらいだろうか? クリスマス前にはスペインに戻っていった。しかし、同じラテン系だからとはいえ、彼のフランス語はそんな短期間でもすばらしい上達ぶりで、聞いていて早々に追いつくのをあきらめたほどで、そう、本当にヒュッヒュィッとこなして、ヒュッヒュィッと去って行ったのだった。